私たちは日常の様々な場面で「はかる」行為に出会います。また、はかられた結果から判断する場面も多いでしょう。今回の記事では、優れたセンシング技術で世界50ケ国以上に製品を提供する新光電子株式会社(以降、「新光電子」)が2019年に発表した、世界初のやわらかさセンサー「SOFTGRAM®」※1(ソフトグラム)の誕生ストーリーをお伝えします。
やわらかさセンサー「SOFTGRAM®」を知る
新光電子株式会社は「はかる」をキーワードに、優れた技術で世界初のはかりや天びんといった製品を世に送り出してきました。2019年2月には、人によって感じ方の大きく異なる「やわらかさ」という曖昧な感覚を測定するセンサー「SOFTGRAM®」を発売し、いつでも、誰でも、簡単に正しい測定ができる製品を実現しました。新光電子は本製品で、2019年度の世界発信コンペティション 「製品・技術(ベンチャー技術)部門 特別賞」※2を受賞しています。
https://www.vibra.co.jp/products/softgram
いつでも、どこでも、誰でも正確な測定を実現する難しさ
センサーを用いる際、同一条件の下で測定することが非常に大切です。測定対象によって整えるべき条件は異なりますが、SOFTGRAM®では測定物に対してセンサーを垂直に押し当てる必要があります。同一の対象を測定する場合、いつでも、どこでも、誰でも同じ測定結果になることが求められますが、実際はどこに配置するか(例えば、測定対象を置くテーブルにぐらつきが無いか、硬さはどうかなど)、誰が測定するか(全く同じ順序、押し付ける力、押し付ける時間の長さなど)で結果が変わることもしばしばあります。精密な測定が必要とされる場面では、例えばエアコンの微風やドアの開閉で測定数値に影響が出ることもあります。 SOFTGRAM®の優れた点の一つに、片手で操作できるコンパクトさと軽さがあります。本体重量は150gとスマートフォン程度の軽さで、成人なら片手でかんたんに操作できます。計測自体も、ボタンを押し、センサーの先端を測定対象に軽く当てるだけで、特別な手順は必要ありません。持ち歩きも容易なため、計測したいものをセンサーの近くに持ってくるのではなく、センサーを持っていき、測定したいタイミング、対象物のある場所で測定可能です。
開発メーカーに聞く、
やわらかさセンサー誕生までの道のりと今後
今回、新光電子株式会社でSOFTGRAM®の開発の初期から発売までを一貫して担った小峯氏にお話を聴くことができました。
やわらかさセンサー誕生のきっかけは、新規事業開発
小峯氏2016年度、新しい社長が就任した際(現社長の森井俊秀氏)、顧客創造を担う部門としてマーケティング室が設立されました。はかりや天びんといった計測機器は世界各国で計量に基づく法律や単位に従って製造されており、計測はものづくりに必須なため突然市場が無くなることはありませんが、急成長する市場でもありません。我々は、はかりや天びんで世界初の製品を提案してきましたが、全く新しいお客様に出会いたい、我々しか成し得ない製品を手掛けたいという強い思いがありました。当時、マーケティング室は、音叉式力センサーという新光電子独自の技術を強みに、新規事業開発に取り組むという明確なミッションを掲げていました。
お客様がまさに今お困りのことは何かを探っていくうちに、職人レベルにしか分からないわずかなやわらかさの違いの測定を、今この場で(待つことなく)必要としていることが分かってきました。結果は粗いがハンディで速く測定できる製品は、それまでにもありました。しかし、我々に求められていたのは、速く、かつ正確な測定ができるセンサーで、新光電子がこれまでに取り組んできた製品づくりとは一線を画したやり方が必要になりました。
外部の専門家と挑む、全く新しいものづくり
小峯氏SOFTGRAM®の製品づくりは我々にとって初めての連続でしたから、社外の専門家と共にコンセプトやプロダクトデザインを練り上げ、創り上げました。コンセプト策定では、ブランド開発やリブランディングを得意とする会社と一緒に、毎週のように意見を交わし、メッセージを絞り込んでいった結果、「いつでも、どこでも、誰でもかんたんに正しく」というシンプルで力強いメッセージに辿り着きました。
センサー本体もプロダクトデザイナーに入っていただいて、プロトタイプの製作やテストユーザーによる測定試験なども行いました。SOFTGRAM®の用途でエンジニアが形を考えるとペン型になりがちですが、プロダクトデザイナーからは測定する行為も含めたデザインとして3タイプの提案があり、握りやすさ、安定感、測定試験の結果の優れた現在の形状に辿り着きました。プロフェッショナルが使うことを考え、外観の美しさも意識した色や形状を選んでいます。
我々にとっても社外の専門家と密に組んでものづくりを進めるのは初めてのことでしたが、森井(社長)の全面的なバックアップと技術を支える少数でも気鋭のエンジニアの大きな協力・活躍があって、SOFTGRAM®ができあがりました。
スポーツ医学の世界へ
小峯氏新光電子は薬学、化学分野のお客様に広く知っていただいていますが、将来は医療分野への貢献を目指しています。その足掛かりとして、SOFTGRAM®はスポーツ医学の分野で活用いただくことを考えています。
広く知ってもらい、次に備える
小峯氏まずはSOFTGRAM®が単独で事業として成り立つように、広く知ってもらえる活動を展開し、ユーザーと売上を拡大していくことです。研究開発や医学の分野で活用いただく高価格の精密機器ですから、予算計画から購入までには一定の期間が必要です。さらに、購入された後もお客様に寄り添ってニーズを集め、関係者で情報共有し、改善を考えるサイクルを繰り返して、仕様化を検討します。販促と並行して、次のより良い製品に備えることをやっていきたいですね。
センサーとロボットアームを組み合わせた
新たなソリューション
SOFTGRAM®発売から一年余りが経過しました。本製品は研究機関や企業内のR&D部門などからの引き合いが多く、ユーザーの声を聴く中で、同一条件で繰り返し、より正確な計測をしたいというニーズが見えてきたそうです。いつでも、どこでも、簡単に測定可能な手軽さが大きな強みである一方、軽量コンパクトであっても、ヒトが長時間に渡って同一条件を維持して測定を続けることは難しいのが実状です。そこで、計測対象に繰り返し垂直にセンサーを押し当てるという動作を昇降装置で実現することで、SOFTGRAM®の機能を最大限に活かすことを検討しました。
はかりやセンサーの企画、設計、開発、製造、販売を一貫して手掛ける新光電子では、自社でオリジナルの昇降装置を製作することも十分可能でした。自社製造では本当に欲しいものを形にすることができる反面、品質マネジメントまでの仕組みを整えるには格段に時間がかかります。新光電子では、時間をかけた100%ではなく、お客様が満足する仕様のものをお客様が必要とするタイミングで提供することを目指していたそうです。
SOFTGRAM®と小型ロボットアームDOBOT Magician®を組み合わせた動作検証を経て、ユーザーにとって短期で容易に導入できる方法を新たなソリューションとして提案することを決めました。正確な測定を必要とするユーザーにとって、センサー単体ではなく、その機能を十分活かすことのできる装置も併せて提案することで、課題解決に一歩も二歩も近づくことができます。小型ロボットアームが得意とする同一条件の繰り返し動作をうまく使ったソリューションと言えるでしょう。
やわらかさセンサー「SOFTGRAM」+小型ロボットアーム「DOBOT」のご紹介 |
新光電子株式会社
お話を伺った方
新光電子株式会社 マーケティング室 小峯岳央 氏
はかりを中心とする計測器の設計・開発に従事した後、マーケティング室への配属を契機にSOFTGRAM®による新規事業立ち上げに携わる。企画・研究開発から発売まで一貫してプロジェクトを率いると共に、外部の専門家や社内複数部門を巻きこんだ顧客創造、ユーザー拡大に邁進する。
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