近年、製造業では少子高齢化や労働力不足の深刻化する中、人材確保や業務効率化が大きな課題となっています。そして、現場の生産性向上だけでなく、労働環境の改善や人材育成といった従業員に選ばれるための中期的な視点も求められるようになってきました。これらの課題解決に向けた新たな選択肢として注目されているのが、協働ロボットの導入です。現在、人手不足や協働ロボットの導入の必要性を実感していない方でも、近い将来この問題に向き合う手段として考えざるを得ない状況になっていくことが予想されます。
本記事では、製造業が直面する現状を踏まえ、協働ロボット導入の意義やその可能性について掘り下げていきます。
製造業がおかれている状況
全産業における人材の流動化
「以前に比べて転職しやすくなった」という言葉を近年耳にする機会が増えたかと思います。日本における入職率・離職率の割合は年々増加しており、実際に人材の流動化は着実に進んでいます。以下の表には、令和4年~5年の常用労働者の入職・離職数の具体的な数字が挙げられています。
(出典:厚生労働省「令和5年度雇用動向調査結果の概況」より)
「令和5年雇用動向調査結果の概要」の令和4年から5年にかけての”前年差”の行では、入職率は1.2ポイント、離職率は0.4ポイント増加していることがわかります。
具体的な数字として、人材の流動性は年々上がっていることがこちらの表からも読み取れます。
減少する製造業の就業者数
入職・転職の動きが活発化する中、製造業が占める就業者数は減少傾向にあります。
(出典:「令和4年度 ものづくり基盤技術の振興施策」)
非製造業の就業者数はゆっくりと上昇しているのに対し、製造業における就業者数は少しずつ減少しています。また、上記のグラフの赤い折れ線グラフを見てもわかるように、全産業における製造業の割合は減少し続けています。今後このような流れは加速していくことが予想されます。
そのためにも、今一度製造現場における課題を押さえつつ、従業員が働き続けやすい環境作りに注力していくことが今後の企業発展の要になります。その環境形成の手段の一つが、協働ロボットの導入です。協働ロボットの導入は、単なる作業工程の効率化とは別の側面で、「従業員に選ばれる」効果が期待される場合があります。
製造現場をアップデートする協働ロボットの可能性
「協働ロボット」という名前を耳にして、
・効率化
・従業員の労働環境改善
主にこのような理由で協働ロボットの導入を検討されてきた、もしくは想像されている方が多いのではないでしょうか。
調査アンケートでは、生産性の向上を目的として導入していることがこちらのグラフから読み取れます。
(出典:近畿経済産業局「中小製造業のためのロボット導入促進ガイドブック」より)
加えて、従業員の労働環境整備に力を入れている企業も見受けられます。効率化を求めた施策はもちろん重要で、利益にも影響を与えます。そうした直接的な観点に加えて、戦略的に効果を得続けるためには、人材を獲得するための労働環境の改善や、製造業を生業とする自社のめざす “ありたい姿” などといった中期的な課題解決に視点を置くことの方が重要です。
「従業員の負担が減る」ことでどう変化するのか
協働ロボットを導入すると、従業員の負担が低減されるというのは既に広く知られている事実です。そして、それが企業活動全体に具体的にどのような影響を及ぼすのかも含めて考えることは必要不可欠です。具体的には、以下のような2つの中期的なメリットも考えられます。
(1)作業効率が上がるため、人材育成にも手が回るようになる
製造業における「能力開発や人材育成に関する問題点の内訳(2021年度)」では、指導する人材が不足していることに対して課題と感じている企業は6割も存在していることが述べられています。人材育成を進めるにあたって、その指導者不足は多くの企業が直面している課題ともいえます。そこで、協働ロボットに任せることができる仕事を代替することで、指導に従業員が取り組めるようになります。
(2)女性が参入しやすくなる
身体的な力を使う場面が比較的多かった製造業においても、労働負荷が高い部分を協働ロボットに任せることで、手仕事タスクに代わり認知タスクが求められ、女性の参入も見込みやすくなります。
協働ロボットの利点を活かすために考えるべきこと
協働ロボットの導入を考えていくにあたって、まず考えることは
・企業活動や製造工業の「何の改善」が目的なのか具体化すること
・協働ロボットを使った労働環境の構築
の2点が挙げられます。
協働ロボット導入においての誤解とホント
最後に、導入の際に抱いていらっしゃる方が多い、協働ロボットの「誤解とホント」に触れたいと思います。
● 「全ての作業を完全に自動化する」という誤解
→完全に自動化するというわけではありません。
あくまでも人の代わりの場合は、人との協働活動や人の補完が多いようです。
経営課題の側面からみて、どの工程でロボットに頼るか考えてから、部分的に自動化を初めて見るのが実践的です。以下は、ロボットの用途産業別事例の一部です。
(出典:「ロボット技術導入事例集」 経済産業省「平成22年度中小企業支援調査委託費」)
● 「安全対策が難しい」という誤解
→協働ロボットは、通常の産業用ロボットより安全対策の設計が容易である点が大きな特徴です。
通常の産業用ロボットは高速かつ高出力で動作するため、人間と同じ空間で使用するには柵やセンサー、緊急停止措置などの厳重な安全対策が必要です。一方、協働ロボットは人間との近接作業を前提に設計されており安全機能が準備されているため、作業エリアや複雑な制御システムを最小限の範囲に収めることができ、安全対策の導入コストや手間を低減することができます。
● 「プログラムを組むには専門の人を雇う必要がある」という誤解
→必ずしもそういった人材が必要ではありません。
現在の協働ロボットは、初心者でもプログラミングの作成が可能になっている仕様のものが多くあります。直接ロボットのハンドを動かし覚えさせる「ダイレクトティーチング」やタブレット端末で操作できるようなロボットなど、本格的にプログラミングを学んでいなくても操作することが可能です。
● 「生産現場で雇用を奪う」という誤解
→協働ロボットは雇用を奪うのではなく、むしろ人を中心とした新たな可能性を広げることに繋がります。
協働ロボットは、補助的な役割を担うケースも多くあります。繰り返し作業や負担の大きい作業を補ったり、危険な作業を減らすことを目的にされていることもあり、大きく本来の目的とは異なる使い方をしない限り雇用を奪うという結果になることは考えづらいです。
さらに、従業員の方が創造的な業務に時間を使えるようになるケースもあり、事業拡大の際に新たな雇用機会の創出も期待されます。
● 「すぐにコスト削減が見込める」という誤解
→必ずしも “効率化するとすぐにコスト削減につながる” というわけではありません。
労働生産性の向上効果、生産量増加、品質安定化の効果を踏まえると3~5年程度で投資回収を計画しているケースが多くみられます。
おわりに
協働ロボットの導入は、製造業で活躍する企業が直面している課題を解決しつつ、持続可能な労働環境を気づくための重要な選択肢です。人材育成や働きやすい環境づくりも視野に入れ、未来を見据えた導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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【参考一覧】
・「令和5年度雇用動向調査結果の概況」厚生労働省 令和6年8月27日
・「令和4年度 ものづくり基盤技術の振興施策」 第211回国会(常会)提出
・「2023年版 ものづくり白書(令和4年 ものづくり基盤技術の振興施策)概要」 令和5年6月 厚生労働省 人材開発統括官 厚生労働省
・「中小企業のためのロボット導入促進ガイドブック」近畿経済産業局
・「人口高齢化と自動化が労働市場に与える影響 ーサーベイ」姜茗予、佐野晋平
・「ロボット技術導入事例集」 平成22年度中小企業支援調査委託費 経済産業省
・「ここが知りたい!ロボット活用の基礎知識」経済産業省、一般社団法人日本ロボット工業会
・「協働ロボットの安全解説書~ロボットを使用した共同作業に向けて~」2023年3月 ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会 ロボット利活用推進ワーキンググループ(WG2)