人材不足が加速する中、ロボット化待ったなしの社会で生きる全ての人が【持つべき観点】を多くの方にお届けしたいという思いのもと、今回、製造業DXに向けたパッケージ開発に取り組む株式会社アフレルの小林靖英氏と、日本最初の産業用ロボットメーカーである川崎重工業株式会社(以下、川崎重工)ロボットディビジョン長の坂東賢二氏の対談が実現しました。
今回の記事ではその前編をお送りします。ぜひ最後までお読みください。
<話し手>
坂東賢二 氏(川崎重工業株式会社 執行役員 ロボットディビジョン長)
<聞き手>
小林靖英 氏(株式会社アフレル 代表取締役 共同CEO)
【プロフィール】
日本電装(現・株式会社デンソー)代理店にて車載コンピュータ・電装品回路エンジニアを経て、永和システムマネジメント入社、金融システムエンジニア20年活動後、教育未来支援事業部を立ち上げ事業部長に就任。2006年株式会社アフレルを設立創業。
・社)組込みシステム技術協会 理事
・ETロボコン 本部共同企画委員長
・WRO(World Robot Olympiad) 国際委員会 理事
(以降、敬称略で記載しています。)
アメリカからドイツへ、国内外でロボットビジネス経験を積む
小林:坂東さんの自己紹介をお願いします。
坂東:私は機械工学(※1)を学んだ後に川崎重工に入社し、当初はロボットを使った自動化設備を提案しながらビジネスを見つけていくシステムエンジニアの仕事に携わっていました。その後アメリカに駐在し、自動車メーカー向けエンジニアリング業務や日本との調整業務などに携わっていました。
日本に帰国後はシステム設計に10年ほど携わり、その後ヨーロッパの事業担当としてドイツに4年ほど駐在し、ヨーロッパでのロボットビジネスを経験した後再び帰国して現在に至ります。
※1:機械工学
機械の開発・設計・製作・運転に関して研究する工学の一分野
陸海空を繋ぐ技術革新:川崎重工とロボット事業の歩み
(「川崎重工の歩み」提供元:川崎重工業株式会社)
坂東:川崎重工は1878年に川崎正蔵が創業し、築地の造船所からスタートしました。その後1900年代前半には様々な船や橋、また当時は飛行機なども生産しており、産業用ロボットについては今から約55年前(1969年)に、日本で初めての産業用ロボットを生産し世に送り出しました。
1975年には「Z1」というモーターサイクルの生産を米国で開始し人気を博しています。
他にも「LNG運搬船」や「シールドマシン」、そして「新幹線車両」などを手掛け、 2019年には世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」の開発・建造を行い、現在実証実験中です。このような形で、川崎重工は陸海空に渡って世の中に貢献している会社です。
日本で最初の産業用ロボットを上市:川崎重工のロボット事業の進化と挑戦
(「川崎重工 ロボット事業の歴史」提供元:川崎重工業株式会社)
坂東:1969年には日本初の産業用ロボット「ユニメート」というロボットを上市しました。
1980年代になると自動化ロボットを世の中に送り出しながら、1990年後半には半導体ウェハ(※2)を、微粒子レベルの塵を一切出さずに運ぶロボットを開発しました。
そして2013年頃には半導体向けロボットで世界シェアナンバーワンのロボットメーカーとなり、2020年には川崎重工とシスメックス株式会社との合弁会社「株式会社メディカロイド」から手術支援ロボット「hinotoriTMサージカルロボットシステム(以下、hinotori)」を上市、現時点で累計約7,000回の手術を行い、日本国内での症例数を増やしている状況となります。
また2000年後半から現在にかけてはヒューマノイドや、ソーシャルロボットと呼ばれる人と同じ空間で自律移動しコミュニケーションも可能なロボットも手掛けています。
川崎重工全体の中で見ると、売上高は1兆8000億円程度(2023年度の連結)、精密機械・ロボットという事業セグメントでの売上高比率は約12.3%という形で事業を進めています。
(「事業セグメント別売上高比率(連結)」提供元:川崎重工業株式会社)
小林:オートバイなんか僕らも若い頃憧れでした(笑)。
幅広い事業の中で、やはり産業用ロボットが日本最初というとこは大きいですよね。
坂東:私たちがロボットの老舗的な役割をしっかり担っていかなければいけないと思います。
※2:ウェハ
半導体の薄片でできた、集積回路をつくるための厚さ300mm程度の基板
川崎重工、「総合ロボットメーカー」とは
小林:「産業用ロボットメーカーから総合ロボットメーカーへ」と掲げられていますが、総合ロボットメーカーとはどういうところを指しているのでしょうか?
坂東:1969 年から約50年以上にわたって産業用ロボットを手掛けている中で培ってきたノウハウを、他のロボット開発にもどんどん活かしたいということです。
製造現場の皆様に役に立つロボットメーカーを目指してノウハウを積み上げてきましたが、今後は総合ロボットメーカーとして、産業用ロボットに加えて、今の社会課題を解決するという切り口でロボットが活躍することを目指しています。
先ほどご紹介した手術支援ロボット「hinotori」などの医療ロボット、今後活躍するソーシャルロボット、そして既存の産業用ロボット、これらを3本の柱として事業展開する、それが川崎重工における総合というイメージです。
(「当社におけるロボット事業の展開」提供元:川崎重工業株式会社)
医療ロボットが拓く新たな可能性:ゴッドハンドを持つ医師が遠隔の患者を手術する未来
小林:例えば医療ロボットでは、「より高度な医療を行う」というように従来の産業用ロボットとは目的が違ってくると思うのですが、その点はいかがですか?
坂東:医療ロボットに関しては、「遠隔で手術ができること」に力を入れて実証実験を進めています。世の中のゴッドハンドと呼ばれる先生は人数に限りがあります。ですが、例えば地方の病院に医療ロボットがあり、ゴッドハンドの先生は都会にいらっしゃると仮定した時に、手術の難しい部分はゴッドハンドの先生が遠隔で手術をして、新人の先生が縫合などを後から担当することによって、これまでは順番待ちで全く治療が受けられなかった方々が、高度な治療を遠隔で受けられるようになるかもしれません。
今お話ししたことは一つの例ですが、それが医療ロボットによる社会課題解決の切り口となっています。
小林:私も普段福井県にいますので、都市部と比べれば病院も限られますし、そういった高度な医療を受けるチャンスは明らかに少ない事を感じます。
一日20km歩く⁉医療従事者が専門業務に注力するためにソーシャルロボットができること
小林:ソーシャルロボットというとかなり範囲が広いですが、どの分野に注力されていますか?
坂東:医療分野でソーシャルロボットが活躍できないかと考えています。現在は「hinotori」を用いた手術支援、そして病院内の医療従事者の業務支援を行っています。
例えば、現状は病院の中で看護師さんが患者さんの血液検査のために血液を採取し、それを検査センターまで持っていくことも看護師さん自身が行っており、スペシャルな技術を持った方々が運搬に時間を費やされているというもったいない状況です。
当社で看護師さんたちが一日どのくらい病院の中で歩かれているか調査したところ、最も歩かれる方で1日20kmも歩いていました。そこに当社の「FORRO」という運搬ロボットを導入させていただくことで、歩くことがグっと減った。人でしかできない大切なお仕事に人が注力し、ロボットに任せられことは任せる。ロボットがしっかりと役目を果たすことでより効果が出ると考えます。
このように川崎重工のソーシャルロボット開発は、医療支援から始まり徐々に社会の方へ広がっているイメージです。
サービス業界を多方で支援、活躍し始めたソーシャルロボット
坂東:「Nyokkey(ニョッキー)」という会話をするロボットがあります。これは会話や身振り手振りに注力したロボットで、介護のエリアで役立てられないかと考えています。
例えば介護施設に入られている方が、息子さんと喋りたいけれどもその息子さんは仕事をしていてそう簡単に対応できないといった場合に、ロボットの「顔」の部分に息子さんの写真を写しながら、代わりとなってどんどん喋りかけるといった活用が可能です。そうすることで、介護の施設に入られている皆さんの気持ちもよりハッピーになる、そういった活用もできないかということで取り組んでいます。
産業用ロボットも、ソーシャルロボットと同様「人がより高度な仕事につけるように」、
人にフォーカスしたところで役立つようなロボットをどんどん展開していこうという流れになっています。
また、ロボットであれば、ビルディングの管理・警備における、何かのランプやメーターのチェックといった業務を、指示通り確実に行うことが可能です。チェックしたデータを解析しデータベースに蓄積すれば、それがビッグデーターとして残るので、トレーサビリティ(※3)にも使えるかもしれません。そういう点で警備・警護の分野でも活用できると考えています。
小林:坂東さんのおっしゃる通り、ロボット活用のメリットには人が行う作業の代替えや生産性向上といった点もありますが、やはりデータが取れるという点が大きいですね。AIを活用しようとしても、結局データがないとどうにもならないですから。
※3:トレーサビリティ
生産物の「処理の履歴」や「材料及び部品の源」を明らかにすること。
総合ロボットメーカーは競合も多種多様、川崎重工の強みとは?
小林:総合ロボットメーカーとなると、例えば電機メーカー等、今後競合先も増えてくると思います。その中で川崎重工さんの強みとなるのはどこですか?
坂東:産業用ロボットをベースとしてやっていることで、色々なお客様の声を直接キャッチできる点は強みだと考えます。
また、恐らくソーシャルロボット・サービスロボット系は、様々な新規のロボットメーカーさんが参入されると思います。私どもは単独でソーシャルロボット・サービスロボット事業をするというイメージではなく、例えばAIにすごく尖った技術をお持ちの方や、クラウド系のソフトウェアが強い方など、新しくロボットの領域に挑戦される優秀な方々ともうまく競争・協業しながら、世の中の社会課題を解決できるような製品を一緒に作り上げる、というスタンスでやっていきたいです。