自動化コラム

【中編】対談レポート:川崎重工に聞く本気変革<桁の違う新領域へビジネス本格始動> 全ビジネスパーソンが知りたい《なぜロボットと共に生きなければならないのか》

人材不足が加速する中、ロボット化待ったなしの社会で生きる全ての人が【持つべき観点】を多くの方にお届けしたいという思いのもと、今回、製造業DXに向けたパッケージ開発に取り組む株式会社アフレルの小林靖英氏と、日本最初の産業用ロボットメーカーである川崎重工業株式会社(以下、川崎重工)ロボットディビジョン長の坂東賢二氏の対談が実現しました。

今回の記事ではその中編をお送りします。ぜひ最後までお読みください。

<話し手>
坂東賢二 氏(川崎重工業株式会社 執行役員 ロボットディビジョン長)

<聞き手>
小林靖英 氏(株式会社アフレル 代表取締役 共同CEO)
【プロフィール】
日本電装(現・株式会社デンソー)代理店にて車載コンピュータ・電装品回路エンジニアを経て、永和システムマネジメント入社、金融システムエンジニア20年活動後、教育未来支援事業部を立ち上げ事業部長に就任。2006年株式会社アフレルを設立創業。
・社)組込みシステム技術協会 理事
・ETロボコン 本部共同企画委員長
・WRO(World Robot Olympiad) 国際委員会 理事
(以降、敬称略で記載しています。)

異分野連携で開く未来:オープンに多様性をもって新しい領域に挑戦する

小林:川崎重工さんは携わる事業領域が相当幅広いので、オープンな環境や人材も含めてかなりの多様性を持って進まれているイメージがあります。

坂東:そうですね。基本的にはオープンに皆さんと一緒にやらしていただく、というスタンスで進みたいと思っています。

小林:新しい領域に踏み出すことには様々な困難がつきものだと思います。これまでとは違う領域、かつスペシャルな領域であれば、技術的にも知識的にも尚更困難があると思いますがいかがでしょうか?

坂東:例えば、「hinotoriTMサージカルロボットシステム(以下、hinotori)」は神戸のシスメックス株式会社さんと川崎重工が合弁で作った、株式会社メディカロイドという会社でプロジェクトを進めています。川崎重工はガチガチの産業分野、かたやシスメックスさんは医療分野の検査装置等を製造されているため、医療業界の用語や慣習などが産業界とは全然違うということで、大変苦労したということを「hinotori」のチームメンバーから聞いています。

ガチガチの工業系だったメンバーが、医師の先生方とお付き合いさせていただく中で、先生方の「もうちょっと」という感覚のようなものを、徐々に数値に置き換えて再現できるようになった、と聞いています。
確かにチャレンジングなことですが、そのような困難を少しずつ乗り越えて進むことができないと、新しい領域でロボットを活躍させることはできないと思っています。

小林:10年後、20年後になると、医療現場の風景もかなり変わるでしょうか?

坂東:そうなると信じています。専門職やスペシャリストの人数も少なくなりますし、根本的には省人化が進み、ロボットがどんどん入っていくのではないでしょうか。

「hinotori」は手術支援ロボットですが、例えば放射線治療室のベッドもロボットのような動きをさせるといった開発も現在行っていますので、そういうところでロボット技術が活躍できるのではと考えています。

小林:どんどん医療を高度化し、楽に治療を受けられる環境を増やすということですね。期待しております。

ロボットの世界は、今後どう変わっていくのか

小林:産業用ロボットをはじめ現在のロボットの世界は、ソフトウェア業界で言うと、かつての大型コンピュータに近い時代だと個人的に考えていますが、先々はどのようになっていくでしょうか?

坂東:現状の産業用ロボットは、基本的にはティーチング・プレイバック(※4)というやり方で、教えた場所を教えた通り、繰り返し動くというような基本コンセプトで動いています。ですが今後は、「自律」がキーワードになると思います。自律しながら動いて何か作業をしていく、つまり大型コンピュータからAIになるということです。自律するために、AI技術を駆使した、考えるロボットが出てくると思います。

また、一つのロボットだけが考えても世の中うまく動かないので、沢山のロボットをクラウド技術で繋いでコントロールする必要があります。これを群制御とも言いますが、この群制御によって、例えば大きなデパートの中でサービスロボットが稼働する時に、ロボットに対して「こっちにお客さんが沢山いるから行きなさい」とか「こっちで誰かがジュースをこぼしたから行きなさい」といったコントロールが必要になると思います。

携帯電話で喩えてみると、携帯電話本体がロボットのハードウェア、携帯電話に入っているソフトウェアがロボットのアプリケーションのようなものです。ロボットであれば「掃除する」とか「おばあちゃんのお世話をする」というような内容で、携帯電話のクラウド技術のようにロボット同士で色々な繋がりができる…そういう時代が来るイメージです。

※4:ティーチング・プレイバック
人間がコントローラーのようなものを使って、ロボットに行ってほしい作業を、順を追って教示(位置やセンサ出力条件など)し、そのときのデータを記録、これを再生することによって作業を実現しようとする方式。

車と同じ:ロボットもソフトウェアの比重が高まる

小林:実はアフレルでロボットの社会適用を製造業も含めて行おうと決めた理由の一つに、今後はソフトウェアの比重が高まるのでは、という予測がありました。その点はいかがでしょうか?

坂東:比重は高まると思います。

小林:例えば自動車メーカーさんの中でも、ソフトウェア・デファインド・ビークル(※5)のようにソフトウェア中心の開発になってきた時に、それらを開発する人がどれくらい存在しているかという課題が、今世界的に起きていると思います。川崎重工さんは機械系の開発に携わった歴史が長いですが、ソフトウェア人材の獲得という点はどのようにお考えでしょうか?

坂東:ものすごく苦労しています(笑)。ソフトウェア系人材、そして基盤の設計等のハードウェア系の電装ハードウェアを設計できる人材がロボット事業に来てくれるということが少ない状況です。

ソフトウェア系の人たちはゲームなど色々なところで活躍されていますが、そこからロボットの世界にというのがなかなか…ロボットは目の前で動きますし、プログラムした通りに動かせる喜びや楽しさがあると思うんですけどね~(笑)。

小林:おっしゃる通りで、ロボット(ハードウェア)にプログラムを搭載することで初めて、自分でプログラミングした結果がロボットの動きによってダイレクトに分かると思います。「思ったようには動かないが、作ったように動く」という感じや、フィードバックがあるところが非常に楽しいですよね。

改めて、ソフトウェアの比重が高まっていくという事で、先日日本初のQRコード決済システムと連動したロボットカフェシステムに、川崎重工さんが開発された双腕スカラロボットduAro(デュアロ)が採用されたというニュースを見ました。このロボットは、ソフトウェアとクラウドの連携になってくるのですか?

坂東:そういう連携にもなりますし、両手があるロボットなのでドリンクを供給することもできます。他にも羽田空港近くにある「Future Lab HANEDA」では、カレーやスパゲティといった簡単な料理をロボットが作ってソーシャルロボットのNyokkeyがサーブするという運用を行っており、様々な場所でロボットを活躍させるトライを続けているところです。

※5:ソフトウェア・デファインド・ビークル
従来、自動車の場合はエンジンなどハードウェアが性能を決定づけてきたが、SDVは搭載されるソフトウェアによって自動車の性能が左右される。

ロボットより人の方が早い?人とロボットでは得意なことも、活躍の仕方も違う

坂東:正直に言えば、今はソーシャルロボットより人がやる方が絶対早いです。今の段階では。

ですが人は休憩もするし病気にもなる。一方ロボットは、言われたことはちゃんとやるし休まない。企業であれば人が集まる、集まらない、といった様々な問題がありますが、ロボットはずっといる。現時点では社会実装がスムーズにいかないこともありますが、様々な場所でロボット導入がトライされている状況はとても嬉しいです。

小林:ただ、今多くの方がロボットに期待しすぎかなと思うこともあります。

坂東:そうですね。以前私がファクトリーオートメーション系でロボットを使った提案を行っていた際、初めて購入してくださる方から必ず言われたこととして、「ロボットだから何でもできるでしょ」という言葉がありました。それに対して、「ロボットは教えたところでしか動けないこと」や、その得意不得意をお伝えしながら落とし所を見つけていくことも提案の中の一つでした。「鉄腕アトム」とか「ドラえもん」はすごくいいロボットですが、まだそこまで万能のロボットはないと思います。


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