昨今、生産現場で産業用ロボットが導入される事例が増加していますが、ロボット市場は2021年の国内ロボット導入台数が前年比22%増(4.7万台)と着実に拡大しています※1。また、介護や医療、建設など人材不足が顕著な業界でもロボットの導入が始まっており、ロボットの形状も使用用途に合わせて多様化しています。さらに、ロボットを活用した業務の効率化や自動化、ビジネスモデル変革の実現までを目指す「RX(Robot Transformation)」という考え方も広がりを見せています。
2023年1月25日(水)、産学官における「ロボット」の専門家4名にご登壇いただき、【”ロボットと人間が共生する未来社会”に向けて ~産学官の有識者が自由に語る座談会~ RXで実現する、社会課題解決の「今」と「未来」】を開催しました。座談会では、産学官それぞれの立場から、RXを推進する上で検討が必要となる「ロボットと人間の共生の在り方」や、「共生によりどのような価値が生まれるのか」を軸に、自由に語っていただきました。本記事では、当日の座談会の様子を前編後編に分けてお届けします。
<登壇者>(五十音順)
■尾島 正夫 氏(ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会(RRI)事務局次長)
■久池井 茂 氏(北九州工業高等専門学校 教授)
■羽田 卓生 氏(ugo株式会社 取締役COO)
■綿貫 啓一 氏(埼玉大学 大学院理工学研究科 人間支援・生産科学部門 教授/大学院理工学研究科機械科学系専攻メカノロボット工学コース コース長/戦略研究センター健康科学研究領域 領域長/先端産業国際ラボラトリー 所長/社会変革研究センター センター長)
<ファシリテーター>
■小林 靖英(株式会社アフレル 代表取締役社長)
洗濯機はロボット?それぞれが定義する“ロボット”とは
小林:一つ目のテーマは「”ロボット”とはなにか」です。このテーマの前に、皆さんにとって洗濯機はロボットなのか、お答えください。お手元のフリップに回答をお書きください。(以下、 [ ]はフリップに記載した回答)
羽田:[今、発明されたらロボットです]
今、洗濯機が発明されたらロボットです。テーマである「ロボットとはなにか」に対する私の答えになりますが、世の中に浸透する前の自動化された機械のことを、ロボットと呼ぶと思います。洗濯機の場合、洗濯機は新たな固有名詞となり社会に浸透していますが、もし洗濯機が存在せず、今発明されたとしたらロボット(と呼ばれる)だと思います。
綿貫:[センサ系、知能・制御系、駆動系→知能化→洗濯機:YES]
答えは”Yes”です。ロボットの構成要素には、センサ系、知能・制御系、駆動系があります。洗濯機は、適切な洗剤量を計測するセンサやモーターが装備され、知能化されているため、ロボットの構成要素を満たしています。
また、これらの構成要素に加えて、フィジカルなものからサイバー、バーチャル、XRを活用したものへと変化しています。モノがあって中にソフトウェアがあるロボットから、フィジカルとサイバーのどちらも含めたサイバーフィジカルシステム(CPS:Cyber Physical System)、例えばサイバー空間で動き、人がインタラクションする、といったロボティクスの概念が拡張してきています。
尾島:[YES]
綿貫先生が話されたロボットの定義に加えて、最近はロボットの定義が広がっているように感じます。その中で、私は人の支援をするモノやシステムをロボットとみなしてもよいのではと考えます。例えば、産業用ロボットやオフィスで働く清掃・警備ロボット、家庭でのお掃除ロボットや洗濯機、車の自動運転があります。
久池井:[ロボットです!ロボット→動くもの]
私は動くものをロボットと捉えています。物理的なモノやサービスを含め、動くものがロボットだと思います。
小林:この質問の背景には、小中学生向けのロボット・プログラミング・ワークショップで「洗濯は誰がやるのか?」を20年以上聞いており、21世紀初め頃は「おうちの人」がほぼ全員の反応でしたが、この10年くらいで「洗濯は洗濯機がやる」という反応が多くなってきていることなんです。
本日の皆さんのお話を踏まえると“ロボット”の定義は広くなり、人によって定義が変わってきているのだと感じています。
ロボットへの寄り添いと工夫でうまれる共生する社会
小林:二つ目のテーマは「共生する社会とはどんなものか」です。尾島さんにお尋ねしたいのですが、工場における産業用ロボットは人と共生しているのでしょうか?
尾島:共生とは言えないですね。工場では、産業用ロボットは安全柵で囲われているため、ロボットと人は分かれています。しかし、最近は産業用ロボットに安全機能を持たせ、安全柵がなくても人の横で働ける「人協働ロボット」が登場しています。例えば、組み立て作業では、ロボットが人の横で働き、人に部品を渡し、人が組み立てたものを次工程に運ぶ、のような動きをしています。このように、産業用ロボットも共生化の方向に向かっています。
小林:産業用ロボットも共生化の方向に向かっているのですね。
イベント会場の様子
小林:ロボットの概念が広がり始めている中、どのような社会になると “共生している社会”と言えるでしょうか?久池井先生いかがでしょうか?
久池井:ロボットによる部分的な支援から、ロボットと人が調和するのが共生と言えるのではないでしょうか。ロボットが「危ない、きつい、汚い」の置き換えだった時から変化し、人間社会の中にロボットが溶け込み始めていると思います。人のマインドが変わり、ロボットに対して尊重できる社会になると共生していると言えるのではと考えています。
小林:尊重できるという部分で、海外ではツールや働き手として捉えられる一方で、日本では鉄腕アトムやドラえもんを例に、ロボットを友達や一緒に何かをする仲間として捉えているという面もありますよね。綿貫先生はいかがですか??
綿貫:ヒューマンマシーンインターフェースの研究では、人と機械の関係性が徐々に変わってきていると感じます。共生する社会にはいくつかのフェーズがあり、最初は、人とロボットや機械、人工物がつながるという考えでした。次に、人と機械が情報や物理的なやり取りすることで、人の生活の質をあげることでした。最近は、“人にやさしい社会”へと変化しています。ロボットが人に寄り添い、人が必要な情報を取得し、新たな価値が生まれ、様々なニーズに応えられ、そして人の可能性を広げられるような“人にやさしい社会”が共生する社会の像であり将来的な課題です。
さらに、“人に寄り添うこと”の研究で、ロボットが決められた形での“やさしさ”を提供するだけでなく、感情や感覚、場の雰囲気も含めて読み取り、考え、振舞を考えるといった研究があります。また、環境にセンサなどを組み込み、AIを駆使し、人に合わせた環境を作るといったアンビエントインテリジェンスも研究されています。
このように、人とロボットと環境がうまく混ざり合い、人に寄り添って人のQOLを上げるような、共生する社会も発展してきていると思います。
小林:親しみやすいように、ロボットと人が互いに歩み寄ってきているのですね。
綿貫:今までの機械というイメージだけではなく、自分たちと仲間というように見えると思います。
羽田:ugoではロボットと共生するために取り組んでいることがあります。次世代型アバターロボットのugoは点検や警備で使われていますが、ロボットに顔はいるのか?という話がありました。顔がないモデルもありますが、顔があるだけで現場に馴染むスピードが圧倒的に違います。ロボットは人の仕事を奪う自動化設備ではなく、仲間として受け入れられています。介護施設では入居者に可愛がられたり、使用現場ではちょっと失敗しても許されたりといった反応があります。ugoの高さは190センチですが、顔の位置は140センチあたりに設計され、強い存在ではないが仕事がお願いできそうなサイズ感です。このように、ロボット側を工夫するだけで人との距離がグッと縮まると思います。
小林:インターフェースの重要性を感じますね。一方で、工場などの生産現場ではどうでしょうか?
尾島:共生するロボットは2種類あるのではと思います。一つは搬送ロボットや配膳ロボットといった、単機能で完全自立型のロボット、もう一つは、工場にロボットを設置し熟練者が遠隔で操作するアバターロボットです。人と協調しないとできない作業と簡単な作業の二つの路線に分けてロボットが進むように思います。3K以外にも、手術室やオフィスにアバターロボットを設置するなど、人の知識やスキルを使いながらロボットを動かすパターンもあります。完全自立型のロボットに関しては、人間の能力に近づかなくてはいけないため、まだまだ時間がかかるのではと思います。
後編では、「ロボットで解決できる/できそうな社会課題」「それぞれの立場から“未来に向けて”できること」をテーマに繰り広げられた座談会の様子をお届けします。
(後編:https://robot.afrel.co.jp/media/hr/post-2746/)
参考リンク
※1 国際ロボット連盟(IFR)World Robotics Report2022
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