2023年1月25日(水)、産学官における「ロボット」の専門家4名にご登壇いただき、【”ロボットと人間が共生する未来社会”に向けて ~産学官の有識者が自由に語る座談会~ RXで実現する、社会課題解決の「今」と「未来」】を開催しました。座談会では産学官それぞれの立場から、RXを推進する上で検討が必要となる「ロボットと人間の共生の在り方」や、「共生によりどのような価値が生まれるのか」を軸に、自由に語っていただきました。本記事では、座談会の後編の様子をお届けします。
前編:https://robot.afrel.co.jp/media/hr/post-2744/
<登壇者>(五十音順)
■尾島 正夫 氏(ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会(RRI)事務局次長)
■久池井 茂 氏(北九州工業高等専門学校 教授)
■羽田 卓生 氏(ugo株式会社 取締役COO)
■綿貫 啓一 氏(埼玉大学 大学院理工学研究科 人間支援・生産科学部門 教授/大学院理工学研究科機械科学系専攻メカノロボット工学コース コース長/戦略研究センター健康科学研究領域 領域長/先端産業国際ラボラトリー 所長/社会変革研究センター センター長)
<ファシリテーター>
■小林 靖英(株式会社アフレル 代表取締役社長)
ロボットによる社会課題解決に向けて必要なテクノロジーとは
小林:三つ目のテーマは「ロボットで解決できる/できそうな社会課題」です。冒頭にあった洗濯機を例に、手洗いから洗濯機と、徐々に進化し、洗濯機に衣服を入れるだけで全部やってくれるので、その間に別のことができ、女性の社会進出などに寄与してきましたよね。このように、現段階では、ロボットは人との共生よりも社会課題解決の方がテーマとして大きいのでしょうか?綿貫先生いかがですか?
綿貫:今は共生よりも、役割分担をしながらロボットや機械がやるほうが良いものはロボット化しています。一方で、人がやらなければならない高付加価値なものは、専用ロボットやチューニングしたロボットでの実現はできていません。そのため、今は共生しつつある社会が構成されていて、その先にある共生した社会に向けて高度化・知能化したものづくりが必要です。役割分担をするときには、機械と人間がやっていることを互いに理解し協調しながら、ヒューマンマシーンインターフェースのような相手のことを理解する技術が必要と考えます。場合によっては、感情(アフェクティブインターフェース)を読み取り、人とロボットがコミュニケーションをとり連携が取れると、共生できうまく社会課題を解決できると思います。
ものづくり以外にも、医学やリハビリテーションの世界では、機械は重要な位置づけです。医者不足ヒューマンエラー、人の守備範囲の限界に対して、人のやりたいことや意図を読み取りながら、リハビリテーションで相手がどういう感覚なのか、といったロボットが細かい動作を考慮することで、ロボットと共生して社会課題を解決できるのではと考えます。
また、ロボットが人間と同等の感覚を得るためのIoTのセンシングや適切なデータ抽出、機械への組み込み、機械による実現といった仕組みが必要です。あまり気にせず無意識の中で実施できるように、さらにAIの進化、アクチュエータの小型化・高性能化といったテクノロジーやハードウェアの中への組み込みが必要かなと思います。
小林:まだまだロボットにはテクノロジーが必要だということですね。次に尾島さんにお伺いします。ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会(RRI)は日本産業をロボットとIoTによって革命的に活性化しようと活動されていますが、ロボットの共生など、RRIが目指すところはどこでしょうか?
尾島: IoTにおいてはサイバーフィジカルシステムの上位のデータ連携、例えばものづくりの場合はモノの仕入れ・製造・出荷・品質管理のデータ連携などに取り組んでいます。ロボット関係だと社会実装を進めていこうと取り組んでいます。社会課題である少子高齢化や労働力不足をロボットによる社会実装でカバーしていきたいです。生産年齢人口は1995年がピークで、以降は減少し、2030は20%減と言われています。GDPを保つためには、シルバー人材の活用やロボットによる自動化を進めないといけません。IoTとロボットを組み合わせて日本産業の活性化、発展を目指しています。
小林:ありがとうございます。
産学官の立場から、私たちが“未来に向けて”できること
小林:私たちが子供のころからすると今が未来で、考えていなかったことが起きている状態です。ここから未来をつくるだけではなく、未来をつくる人を育てていくことも重要なところだと思います。これから皆さまが主体的に未来をつくっていく時にどの領域に取り組まれるのかお聞かせください。
羽田:私は、日本発で社会実装、量産、新たな分野のロボットを世に出すこと、と決めています。
小林:なるほど、ロボット・ニッポンで未来をつくる、ですね。
オンライン配信の様子
小林:では、未来に向けてこれからご自身でやるべきこと、やりたいこと、できること、どれでも構いませんので主体的なところをお書きください。では、久池井先生お願いします。(以下、 [ ]はフリップに記載した回答)
久池井:[人財育成 個別最適→全体最適]
技術の話がありましたがサイバーフィジカルシステムそのものだと思います。日本はAIやIoT、ロボットそれぞれの個別最適が得意で次々と進化しています。これからは、それらを共生社会に落とし込むためにも、全体最適となるアーキテクチャとして組める人財を育成していきたいです。私自身、一つの分野にずっと取り組んでいますが、変化の速い時代の中で、物事に柔軟に対応できるという意味でも全体最適、システムインテグレートできる人財を育成していきたいです。そのためにも、尾島さんがいらっしゃるCHERSI(未来ロボティクスエンジニア育成協議会)にもご協力いただいています。
小林:高等専門学校では、総合分野を学んでから専門分野を学ぶように、学び方が変わっていますよね。高専ロボコンの活動にもソフトウェアは入っているのですか?
久池井:高専ロボコンにもかなりソフトウェアが入っていて、画像処理やAIに取り組んでいます。昔は機械のコンテストでしたが、ハードは買えばある程度同じのものができるようになってきて、段々と電気・通信と移り変わり完全にソフトになってきています。
小林:総合的にみると、一つの分野のスペシャリストも重要ですが、アーキテクチャ含めた全体最適ができる人材も重要ですよね。続いて、羽田さんいかがですか?
羽田:[子供のなりたい職業にすること]
ロボット産業の人間として、ロボット産業に入りたいと思う子供を増やさなくてはいけないと思います。まずは世の中に普及していることや儲かる商売にしなくてはいけないですし、この二つはやらなくてはいけませんね。
小林:子供がなりたい職業にYouTuberをあげるように、みんなが知っている職業としての認知ですね。続いて、綿貫先生お願いします。
綿貫:[QOLの向上、健康寿命の延伸、DX、人に寄り添った技術、新たな産学官連携、研究開発、人材育成、オープンイノベーション、事業化]
ロボットと人が共生することでQOLの向上、健康寿命の延伸ができるのではと思います。これまでは医療なら医者によってというように、人を中心に快適な生活が築かれてきましたが、ロボットの概念が変わってきて、社会的課題に溶け込んで解決できるようになってきました。この状況を念頭に置いて、未来ではロボットに助けてもらうのではなく、ロボットと共生していきたいです。
これまでは人間しか理解できなかった暗黙知を、デジタル技術で形式知化したり、AI・IoT・VRで実現できたりするようになってきています。そのため、ロボットを教える上でDXをからめて人材育成をしています。また、人に寄り添う技術がないとQOL向上や健康寿命の延伸にはつながらないため、産学官による連携をし、研究開発から製品化し社会に届けなくてはいけません。それらを実現するために最も重要なのは人材育成で、教育やリカレント教育・リスキリングが求められています。ロボット技術のハードウェア・ソフトウェアだけではなく、周辺との関わりについてもより理解することで人とロボットの共生ができると思います。産学官連携を促進するために、オープンイノベーションによる事業化、社会で使用しフィードバックする、という循環が次につながっていくと思いますので、これから未来に向けて取り組んでいきたいです。産学官連携における最初のステップは”つながる”で、変化が激しい世の中になればなるほど、実感としてお互いの強みを知って異なった立場の人が連携することは重要で“新たな産学官連携”をしていくことが重要だと思います。
小林:産学官連携といわれて長いですが、これからはオープンな場所で産学官連携を進めていくことが必要ということですね。ありがとうございます。それでは、最後に尾島さんお願いします。
尾島:[ロボット人材育成強化]
少子高齢化、労働人口減少という中、ロボットと共生するには新しい分野にロボットを導入する技術者が必要だと思います。CHERSIでロボット人材育成に取り組んでいますが、まだまだ一部の学生にしか教育できていません。教育を受けた学生の評価は高い一方で、協力企業の負荷を考えると全国の高校生・高専生に対応するのは難しい面もあります。そのため、学生に認知され、ロボットは面白いと思われるような取り組みを進めていきたいです。三年間の活動を経て、先生と企業が連携すると、企業の新たな技術や共同研究が授業内で自然と学生に伝わり、YouTubeなどで調べて興味を持ってくれるのかなと思います。そのような意味では、認知する活動として、ロボット人材育成強化を進めていきたいと考えています。
小林:以前、未来を考える手っ取り早い方法は自分で未来をつくること、と言われた方もいました。我々にできることとして、共生する社会を作りだせる人材を育成するのが良いのではと感じました。
2040年?2050年?ロボットと人間が共生する未来社会はいつ訪れる?
小林:最後の質問ですが、ロボットと人間が共生できたなと言えるのは何年でしょうか。ぜひお書きください。では、綿貫先生から順番にお願いします。
綿貫:[2040年]
本当はもう少し先かと考えていますが、2040年と書きました。理由として、2005年の愛・地球博での次世代ロボットプロジェクトとしてプロトタイプロボットの製作、展示があります。当時は、2020年の将来を描いてくださいと言われ、技能ロボットが技術継承・技能伝承し人材を育成する世界を描きました。2020年頃に企業の中で活用できる世の中に持っていくことができ、15年ほどかかりました。頭の中は2050年ですが、2040年頃にはやりたいな、という意気込みで取り組むことで加速し、世の中も2040年を目指して頑張ろうという動きになると思います。
羽田:[2050年]
ロボットだけではなく、人の考え方と社会インフラがある程度変わるのにこれくらいかかるのではと思います。また、自分がちょうど高齢になるころで、そのころまでにはそのような社会になってほしいですし間に合わせたいです。
久池井:[2050年]
私も2050年と書きました。グリーン成長戦略などの政策もあると思いますが、聞いたときにぱっとこの数字が浮かびました。2050年には、色々なインフラも整い共生した社会ができるのではと思います。
尾島:[2050年]
AIやIoTといわれて10年経ち、かなり進化しましたが人と共生するまでには至っていないですよね。この10年を考えると、インフラを揃えるなど人と共生できる社会を実現するには30年くらいはかかるのではと思います。
小林: 我々としては2040年にはロボットと共生できる社会でありたいですね。そのために我々もがんばりますし、画面越しで視聴いただいている皆さまもご一緒に頑張りましょう。
約一時間にわたり、産学官それぞれの立場から、”ロボットと人間が共生する未来社会”に向けた現状や今後取り組みたい事などをお話しいただきました。視聴者からは、「各界の専門家の方々の話を一度に聴ける貴重な機会でした」「ロボットに対するアプローチの仕方が様々でおもしろかったです」といった感想が寄せられました。
登壇者(左から、尾島氏、久池井氏、羽田氏、綿貫氏、小林氏)の集合写真